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函館地方裁判所 平成9年(わ)176号 判決

本店所在地

函館市東川町一四番二号

被告人

株式会社アオバボード

(右代表者代表取締役 滝本誠)

本籍

北海道函館市東川町八番地の八

住居

同市東川町一四番二号

職業

会社役員

被告人

滝本誠

昭和五年三月一八日生

主文

被告人株式会社アオバボードを罰金一八〇〇万円に処する。

被告人滝本誠を懲役一年六月に処する。

被告人滝本誠に対しこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(犯罪事実)

被告人株式会社アオバボードは、函館市東川町一四番二号に本店を置き、化粧合板の製造及び販売等を目的とするもの、被告人滝本誠は、同社の代表取締役として、その製造業務全般を統括しているものであるが、被告人滝本誠は、被告会社の法人税を免れようと企て、被告会社の業務に関し、架空仕入れの計上、棚卸しの除外等の不正な方法により被告会社の所得を秘匿したうえ、

第一  平成四年四月一日から平成五年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が五〇五八万六六九二円であったにも拘わらず、平成五年五月三一日、函館市新川町二六番六号にある所轄函館税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一二〇七万〇七一七円で、これに対する法人税額が三五六万七八〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出して、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額一八〇一万一三〇〇円と右申告税額との差額一四四四万三五〇〇円を免れた。

第二  平成五年四月一日から平成六年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が二四八二万七〇〇三円であったにも拘わらず、平成六年五月三一日、前記函館税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一九七七万六八二三円で、これに対する法人税額が六五二万四七〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出して、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額八四一万八九〇〇円と右申告税額との差額一八九万四二〇〇円を免れた。

第三  平成六年四月一日から平成七年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億五二六三万九四五〇円であったにも拘わらず、平成七年五月三一日、前記函館税務署において、同税務署長に対し、所得金額が二五七六万四五一〇円で、これに対する法人税額が八八一万六五〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出して、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額五六三九万四六〇〇円と右申告税額との差額四七五七万八一〇〇円を免れた。

(証拠)(括弧内の甲乙の番号は証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を示す。)

判示全事実につき

1  被告人の公判供述 検察官調書六通

2  菊地政義、児玉宗昭、石川勝章、安部幹二、滝本智、瀧本優の各検察官調書

3  期首棚卸調査書、仕入調査書、期末棚卸調査書、事業税認定損調査書、電話聴取書、調査事績報告書

4  商業登記簿謄本

判示第一の事実につき

1  平成四年度分の修正申告書謄本

2  押収してある平成四年度分の確定申告書等一綴(平成九年押第四九号符号1)

判示第二の事実につき

1  平成五年度分の修正申告書謄本

2  押収してある平成五年度分の確定申告書等一綴(平成九年押第四九号符号2)

判示第三の事実につき

1  平成六年度分の修正申告書謄本

2  押収してある平成六年度分の確定申告書等一綴(平成九年押第四九号符号3)

(法令の適用)

被告人らの判示各所為は、事業年度毎に法人税法一五九条一項に各該当する(被告会社についてはさらに同法一六四条一項)ところ、被告会社については情状に鑑み同法一五九条二項を適用し、被告人については所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、被告会社については、同法四八条二項により各罪所定の罰金の合算額の範囲内で罰金一八〇〇万円に処し、被告人については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役一年に処し、情状により被告人に対し同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。

(量刑事情)

本件は、被告人が、その代表者を務める被告会社の法人税を逋脱したという事案である。

被告人は、被告会社の業績が好調であり、多額の法人税額を納付しなければならない見通しとなったことから、業績が落ち込んだりしても何の援助もしてくれない国に税金を納めるよりも、被告会社の内部に留保してその経営体質を強化しようと考え、国民の当然の義務である納税の義務を怠ったもので、その動機に酌むべき点はなく、たとえ被告会社で雇用している障害者の将来を思い遣った部分があるとしても、この点にいささかも変わるところはないものといわなければならない。またその手法も、取引先を巻き込んだうえでの架空仕入れの計上、棚卸しの除外に始まって、取引先を巻き込んで償却資産である機械類の購入を仕入れとして計上したり、被告人やその家族が個人として使用する物品の購入も仕入として計上する等、巧妙で悪質である。以上によれば、被告人両名の刑事責任は重いというべきである。

他方、被告人は、捜査段階の当初から事実を認め、反省の態度が認められること、前科が全くなく、今回初めて公開の法廷で裁判を受け、その手続を通じて自己の刑事責任を認識したと認められること、これまで障害者の雇用にも努力する等、経営者として健全な社会生活を送ってきたものであること、いくつかの公職も全て辞任し、新聞報道される等の社会的制裁も受けていること、また被告会社も既に修正申告を済ませ、三億三〇〇〇万円を超える各種租税を納付していること、被告人両名が社会福祉法人に対し、贖罪の趣旨もあって寄附をしていること等、酌むべき事情も存する。

そこで、右のような事情を総合考慮して、被告会社については主文のとおり刑を定め、被告人については、今回に限り、社会内で更生の機会を与えるのを相当と判断した。

(検察官高橋久志、私選弁護人小林紀一郎各出席)

(求刑-被告人アオバボード株式会社につき罰金二〇〇〇万円、被告人滝本誠につき懲役一年)

(裁判官 村越啓悦)

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